年度末ならではの慌ただしさで昼飯を食べ損ねた、そんな日の夜。
暴力的なまでの食欲の衝動に突き動かされ、西町大喜の暖簾をくぐる。
富山ブラックラーメンの元祖、というべき店だ。
北陸新幹線の開業効果か多少は県外にも知られるようになった、でも富山県民としてはこんなものが富山のラーメンの代表として扱われてほしくなくて、でも食べちゃう、、、そんな愛憎入り混じったラーメン。
多々あるご当地ラーメンの中でも、最も地元からの賛否が分かれる一つだろう。
万人に好かれる味ではない。
丸椅子に座るなり出される水、それには目も向けず
「小ライス玉子にんにく入り」
とオーダーし、心の準備をしながらじっと待つ。
10分も待たず運ばれてくる。
醤油100%のような漆黒の汁に、コマ切れチャーシューと極太のメンマ、ネギが浮かぶ。
汁の中からかすかに見える太い麵は、まるで深淵から覗く触手のよう。
白飯とのコントラストが、どこかオディロン・ルドンの版画「気球」を思わせる。
食欲のままにチャーシューとメンマ、麺が一体となったものを口に運ぶ。
辛い。
白飯を食べる。
卓上のブラックペッパーを親の仇のように振りかける。
食べる。
辛い。
卵を食べる。
気づいたら、麺も具もなくなっている。
ご飯はとうの昔に空だ。
最後にスープをすする、などという気には到底ならない。というより、飲むものではない。
ひたすらに味を濃く、ご飯のおかずとしてのラーメン、それを突き詰めた結果がブラックラーメンである。
糖質制限を鼻で笑う高血圧の敵、食べ続けたら脳梗塞は必須。
でも食べちゃう。。。
こんな不健康なラーメンが突然生まれるわけもなく、元をたどれば先の大戦後に戦災復興に携わる肉体労働者のため、白飯を腹いっぱい食べられるように作られたのが発祥と言われている。
市街地の99.5%が焼失するという、日本各地の空襲の中でも最悪の被害を受けた富山市。
富山ブラックの如き黒焦げの焼け跡からの復興において、肉体労働者が塩分とカロリーを効率的に摂取するための食料として復興の一助となった歴史が、愛憎半ばしながらも60年以上も廃れず生き残った要因なのであろうか。
まぁ、今となってはサラリーマンの寿命をガンガン削りに来ているのだが。
正直、普段は全く食べたいとは思わない。
体調が悪い時など、二度と来るか、という気になる。
でも、半年に一度くらい、無性に食べたくなる。
美味しかったかどうかは於くとして、この上なく満足感を覚えたことは事実。
ごちそうさま、と小声で言いながら足早に店を出る。
余寒なお厳しい富山の夜が、塩分過多でのぼせた身体に心地よい。
店名:西町大喜 富山駅前店
住所:富山県富山市新富町1-3-8
TEL:076-444-6887
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